第一章 出会い

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 先生が教室にはいって来て、ぐるりと学生たちを見渡し、点呼しますと宣言して名前を呼びはじめた。  それでも隣の男子生徒は起きる様子がない。  せっかく朝イチで起きて授業に出席しているだろうに、このままでいたら家で寝ているのと同じことになってしまう。さくらは他人事ながらハラハラするけれど、隣の彼は何処吹く風で、ぴくりとも動かない。    出席をとっていく教授の声がまるでカウントダウンのように聞こえてしまう。おせっかいとは知りながら、我慢できずに彼の肩をそっと叩いてみた。それでも起きる様子がない。今度は強めに叩いて声をかけた。 「あの!」 「ふがっ!」    変な声をだして、いきなり起き上がったので、さくらまでびっくりして動きが固まってしまった。一方の彼は、ここはどこ? みたいな表情で周りを見渡しているから、つい吹き出してしまう。   「出席をとっているから起きたほうがいいよ?」    小さい声でそう囁く。さくらをぼんやり映している大きな瞳。どういう状況か、まだわかっていないらしい。しばらく虚ろな表情で、まわりを見つめていたけれど、ようやくここが教室だったということを思い出したらしい。 「あー、そっか、教室。起こしてくれてありがとう……」  朝、無理やり母親に起こされた小学生みたいなぼんやりした寝ぼけ顔を向けてきたから、可笑しくなる。  さくらが知っている同級生の男子は皆、卒業を控え、少年なんて雰囲気はどこかに脱ぎ捨て、大人の顔になっている。なかにはおじさんの域に達している猛者すらいる。
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