第五章 ARATA

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 けれど、どうアプローチしてもさくらは素っ気なかった。それはもう、笑ってしまうしかないくらいに。もちろん司の好意に対して、思わせ振りな様子もみせなかった。  そんなドライでさっぱりした感じが逆に珍しく、心地よくもあり、ついつい構いたくなってしまう。  他の男からのアプローチもさらりとかわしていたし、それならそれで、こんな距離感もいいかもしれない。そう思っていた矢先だった。  ARATAを気にしているさくらのことがなんだか気になって。敢えてあの動画をみせて、彼女の様子を探った。結果は悪い意味で予想通りだった。    まだ知り合ったばかりだろうに、間違いなくさくらは新太を男として意識しはじめている。ゲーマーとしての新太のことは知らなかったから、純粋に新太本人に興味をもっているのだろう。  もしかしたらさくら本人も気づいていないのかもしれない。けれど司にはわかった。出会ってから約一年、さくらをずっとみてきたのだから。  一方の新太も絶対にさくらを意識している。あんな挑むような目でみられたら、誰だってわかる。 (あのARATAがライバルかよ……)  悔しいことに、新太の魅力もよくわかってる。年相応に粗削りな部分もあるけれど、彼の内面に宿るアグレッシブさ、メンタルのタフさ、どんな状況でも冷静であろうとする意思の強さ。それらはゲーマーとしての魅力だったけれど、イコール本人の魅力でもあるのだから。  それでも。だからといってさくらを諦めきれるものではない。たとえARATAが相手だとしても。
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