第六章 熱

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 ごほごほごほ。  咳が止まらない。熱もあるような気がしたけれど、体温計なんてないから、何度くらいあるか、新太にはよくわからない。けれど立ち上がると目眩がする程度には熱がありそうだった。  三日連続完徹でゲームのトレーニング。その間ろくなものも食べていない。  そんなところが体調不良の原因。新太自身もよくわかっていた。最近の集中力を欠いた生ぬるいトレーニングじゃいけない。そんな危機感が募って無理をした結果がこれだった。自業自得。またまともにトレーニングできなくなってしまったことに、少し落ち込む。  そんな状態でもマスクをつけ、鉛がたっぷりつめこまれたような体を引きずって、例の月曜一限の授業をうけるために学校に向かう。  出欠をとる授業ではあるけれど、一度くらい休んでも問題ない。むしろ休むべき状態だった。それでも這うようにしてまで学校に行ったのは、さくらに会いたかったからだ。  週に一度しか会うチャンスがないのに風邪をひいたくらいで、その機会をのがしたくなかった。  いつもより遅く教室について、席に向かうと、リクルートスーツをきたさくらが先にすわっていた。授業はもうはじまりかけていたので、隣にすわって会釈だけすると、にこりと微笑み返された。  さくらの笑顔をみれただけでもきた甲斐があった。新太は咳き込みながらも今日のミッション完了、と心の中で呟く。  あとは気が抜けてしまって授業内容はほとんど頭にはいってこなかったし、後半はずっと机に倒れ込むようにして寝てしまった。    しばらくして。肩をとんとんと叩かれて、ぼんやりした意識のまま顔をあげる。 「新太くん、授業終わったよ」
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