第六章 熱

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 薄暗い空間にいきなり光がさしこんだような、さくらのまぶしい笑顔が視界に広がって、思わず目をほそめた。最初の授業で起こしてもらったことをおもいだす。  いつも寝ているのは格好が悪いから、あのとき以来、どんなに眠くても起きているようにしていたのに。新太は慌てて体を起こした。 「あ、ありがとうございます。ゴブッ」  咳を抑えこもうとして、かえってへんな音がでてしまった。さくらがビックリしたように、新太を覗き込む。 「新太くん、すごく具合が悪そうだけど、大丈夫?」 「だいじょうぶ……です。ちょっと風邪ひいたみたいで」 「……ちょっとっていうレベルじゃないような。ごめんね?」  さくらがすっと新太にむかって手を伸ばしてくる。またもやデジャヴ。最初の出会いが、新太の頭のなかを過る。白くて細い指先が近づいてくるスローモーションのビジョン。    ひんやりした手のひらが、新太の額にそっと置かれた瞬間、思わず目を閉じた。ぞくっと震えたあと、一気に気持ちよさ、心地よさが額から全身にびりびりと強い刺激をもって、伝わっていく。 (し、痺れる……)  思わず呻きそうになってしまった。 「凄い熱だよ。もう帰ったほうがいいよ。こんな状態で学校にくるなんて。起き上がるのも辛かったんじゃない?」  さくらがびっくりしたように早口で言う。ゆっくり目を開けると、新太を覗き込むさくらの顔が予想以上に近くにあって、新太の心臓を一気に稼働させてしまう。余計熱があがりそう。あわてて視線を反らせた。 「ちょっと辛かったけど行けるかなって。でも今日はこれで帰りますね……」  さくらさんにも会えたし、と心の中で呟く。
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