第六章 熱

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 うつむき加減の視線の先に、しゃがみこんだせいで黒いタイトスカートが膝上まであがったさくらの腿があった。その距離が異様に近い。  いや、腿だけじゃない。さくらとの距離、すべてが近かった。  熱のせいもあるかもしれない。  いままであまり経験したことがない、身体の内側からせりあがってくる強い衝動を感じて、おかしなことを口走ってしまいそうで怖くなる。 (ヤバい。早くたちあがらないと……)  一人であせって勢いをつけて立ち上がろうとする。が、唐突なその動きを、熱に侵されている筋肉が支えきれるわけもなく、新太はふらっと傾いた。 「あ、あぶない!」  さくらもすぐにたちあがって、抱きとめる形で支えようとした。それでも新太の全体重を、細身のさくらが完全に支えきることはできず、そのままふたり重なりあって、ドアに向かって倒れこんだ。  よくわからないうちに、新太がさくらを“壁ドン“している体勢になってしまう。しかも新太は腕に力が入らないから、ふつうの壁ドンより明らかに密着している。  無意識に新太の喉が鳴ってしまう。その音に反応したように、さくらがビクリと身じろぎした。  一見華奢にみえるのにこうして触れてみると、さくらはとても柔らかった。新太自身も細身だったけれど、骨太な自分の身体とはまるで違う感触に、体温がさらに一度くらい、上がった気がした。    最初に口を開いたのはさくらだった。 「新太くん、大丈夫? 動ける?」  少し身体を離して、掠れた声でそういったさくらの顔をみた。困ったように眉を少し寄せたその表情。白い頬が微か上気している。  
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