第六章 熱

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 痛みに似たせつなさがこみあげてくる。身体を支配する熱も加勢して、それらが理性の殻を突き破ろうとしているのを感じていた。けれど、全身気だるく頭もぼおっとしている新太は、それを止めることができない。 「スイマセン……」 「体調が悪いんだから仕方ないよ。中にはいって……」  さくらの少し掠れた声。気持ちが伝わらないもどかしさに突き動かされるように、さらに彼女を自分に引き寄せてしまう。 「そうじゃなくて……」 「え?」 「もう少し、このままでいてください」  強く、ぎゅっとさくらを抱き締めた。こめかみあたりに頬を寄せ、深く息を吐くと、彼女の黒髪が微かに揺れた。  心臓がドキドキして、このまま死ぬのではないかとおもうくらい速打ちしているのに、ずっとこうしていたい。心地いい。新太は思わず目を閉じる。 「さくらさん、……好き」  吐息をつくように、そうささやいた瞬間、さくらの背中が震えたのを手のひらに確かに感じた。    
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