第六章 熱

8/10
前へ
/253ページ
次へ
 新太がはっと目が覚めたときは、もう部屋の中が薄暗かった。手もとの目覚まし時計をみると、夕方六時を過ぎていた。 「あー、よく寝た」  だいぶ身体が軽くなったのがわかる。まだ多少熱はあるものの、要はひどい寝不足が原因で風邪をひいたのだ。  額に手を当てるとなにかが貼ってあった。剥がしてみると、熱をさますシートだった。サイドテーブルにはシート本体の箱もおいてあった。 「さくらさんが貼ってくれたんだ……」  クリアになった頭で、眠り込んでしまう前にあったことを思い出す。    朦朧としていた新太を、さくらが玄関からひきずるようにして寝室に運んでくれた。そのあとも心配だからしばらく付き添うといってくれたけれど、寝れば大丈夫だからと、帰ってもらうように何度もいった。会社説明会を控えているさくらをこれ以上ひきとめられない。  熱でぼんやりしていても、そのことはちゃんと頭にあったから繰り返し言ったはずだ。さくらの気配がないのは少し寂しかったけれど、説明会に行ってくれたようでほっとする。 (あれ? 寝落ちする前、もっと凄いことがあったような……)  新太はごくりと唾を飲み込んだ。さくらを抱き締めた感覚がじわじわよみがえってくる。自分の手のひらをみつめた。 (俺、もしかして……どさくさに紛れて、さくらさんに抱きついたうえに、告ってなかった?)
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加