第一章 出会い

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 目の前にいる男の子はやっぱり子供みたいに目を擦ったあと、ねみい、と呟いてノートを広げた。先生の点呼する声が教室に響く。聞くともなく聞いていると、起きたばかりの隣の彼がこたえた。 「はい」  意外と響く透明感ある声。つい横をみると、ぴたりと目があって、にこりと微笑まれてしまった。どきりとしてしまう。 「川島さくら」  さくらの名前も呼ばれた。彼に気を取られて少し上の空だったから慌てて返事をする。 「あ、はい!」  焦って声がひっくり返ってしまった。まわりの学生が二、三人ふりかえる程度にはおかしな声。恥ずかしくて頬がかあっと熱くなってしまう。  さくらは表情を隠すように俯き加減になり、意識を授業に集中することにした。なにしろ四年生はひとり、頼る友達もいないから、きちんと授業をうけて単位を取らなくてはならない。  単調な授業がおわって。ひとつ吐息をついた時、川島さくらさん、と声を掛けられ振り返った。隣の席で寝ていた例の男の子だった。 「さっきは起こしてくれてありがとう。助かりました」  人懐っこい笑顔に、さくらもつられて笑顔になる。 「私の名前、覚えてくれたの?」  さっき呼ばれているの聞いて、すぐ覚えましたと、照れたように言って笑った。そんな事を男子に言われるといつも身構えてしまうさくらも、その笑顔に警戒心を解いてしまう。 「せっかく教室にいるのに、出席にならなかったら勿体無いと思って」 「本当にそう。徹夜あけで、一限だからって寝ないでそのまま来たのに、寝過ごしたらバカみたいだった」  頭をかいて笑う彼をみて、やっぱり若いなあと思う。ついこないだまで高校生だった余韻が彼の幼い笑顔に残っている。 「役に立てたみたいで良かった」
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