第六章 熱

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 そう思うだけで胸がきゅんとなる。小さな声でいただきますと呟いて、スポーツドリンクをとりだし、そのまま一気に飲み干した。はあ、と大きく息をつく。ようやく生きた心地になる。  落ち着いたら、着のみ着のままで寝てしまったことをおもいだした。体が汗でベトベトしていた。  熱もだいぶ下がっていたからすぐにシャワーを浴びる。熱いシャワーがすごく心地いい。そういうふうに感じられるのは、回復している証拠だ。咳はまだでているけれど、気だるい感じはだいぶ抜けていた。  部屋着にしているTシャツと短パンを身につけて、バスタオルで頭をがしがし拭きながら、ゲーム用デスクのあるリビングにむかう。  何気なく部屋を見渡すと、机の上に散乱していた、おにぎりのフィルムや空のペットボトルなどのゴミがきれい片付けられていて、そのうえには見慣れないウェットテッシュのボトルが置いてあった。 「きれいになってる」  そう呟いてさらに歩みを進めた新太が、急ブレーキがかかったように、たちどまった。そしてあっ! と叫んでしまってから、慌てて手で口を塞いだ。  大型ディスプレイモニターに隠れてみえなかった窓際のソファ。そこに散乱していたはずの新太の服は綺麗に畳まれている。その横で。  リクルートスーツを着たままのさくらが、穏やかな寝顔でうたた寝をしていた。
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