第七章 あふれる想い

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(今、新太くん好きっていった? 私を? 告白された?)  新太の声が、ぐるぐると頭のなかをまわる。  けれどそのあと、新太が激しく咳き込んだから、金縛りから解けたようにはっとした。ふにゃふにゃな状態になっている彼を、抱きかかえるようにして寝室までなんとか連れていき、ベッドに寝かせた。  そのときはもう、いつもの新太に戻っていた。  うわ言のように、“もう大丈夫です”“説明会間に合いますか”早くいってください“すいません”を何度か繰り返し、いつの間にか眠りに落ちていってしまった。まるで、なにごともなかったように。新太の寝顔に問いかけてみる。 「好きっていったのも、うわ言?」  深い眠りにはいってしまったらしい新太は、全く反応しなかった。頬を赤くして寝ている様子は、さきほどとはまるで別人、まるきり子供のようだった。  癒し系男子だったり、大人の男みたいだったり、クールなゲーマーだったり、子供みたいだったり。 (どれが本物の新太くん?)  そっと指先で彼の頬に触れる。やはり通常より高い熱が指先から伝わってくる。今度は手のひらで頬を包んでみる。  少しざらついた男の子らしい肌の感触と熱さと。その両方が手のひら全体から伝わってくる。手のなかで眠る新太が、ただただいとおしいと感じた。そんなふうに異性に対して感じたのは初めてだった。  足音を立てないように寝室を出て、台所を確認してみる。鍋や包丁、フライパンなどの調理器具、調味料の類いはひとつもなかった。ごめんなさい、と一応謝ってからあけた冷蔵庫の中には、ミネラルウォーターとコーラのペットボトルのみ。さくらはうーん、と呻いた。独り暮らししている男子の台所の典型例みたいだと苦笑する。
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