第七章 あふれる想い

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 さくらはソファから体をおこして、新太を覗きこむと彼は大きく首をふった。 「寝たら随分楽になりました。大丈夫です。それよりさくらさん、もしかして説明会、行かなかったんですか?」  心底すまなそうに新太がそういうから、さくらは苦笑してしまう。 「うん。でもいいの。大丈夫だから気にしないで」  第一志望の会社ではなかったし、彼の体のほうが心配だった。 「それより、熱は?」  手を伸ばして、新太の額に触れる。シャワーを浴びたらしく髪の毛が少し濡れていて、さくらの指先をほんのすこし湿らせる。寝起きでさくらの手は温かい。その体温よりちょっと高い、そのくらいの熱だ。だいぶ下がったみたいだった。思わず微笑む。 「うん。熱は落ち着いたね。あ、体温計買ってきたから、一応計ってみようか」  体温計を取りにいくために立ち上がろうとすると、手首をぎゅっとつかまれた。 「さくらさん、本当にスイマセン。風邪をひいたのだって、俺がいけないんです。飯もろくに食わず三日連続で徹夜したから」 「三日連続?!」  思わず叫んでしまう。新太は落ち込んだような暗い瞳で頷いた。 「自業自得なのに、さくらさんを巻き込んで就活を邪魔するとか、有り得ない……」  しゅんとした新太の様子がひどくいとおしかった。さくらの口許がゆっくりとほころぶ。手を伸ばして、柔らかなその髪の毛なでた。新太がびくっと体を震わせて顔あげる。  さくらが密かに“しーちゃんの髪の毛“と呼んでいるふわふわの髪。今は少し濡れているせいでボリュームが落ち、いつもより大人っぽい雰囲気に新太をみせている。  濡れた前髪の間からさくらをみつめる瞳。その色っぽさにドキリとさせられるけれど、笑顔を浮かべてそんな気持ちをそっと隠す。
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