第一章 出会い

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 視線を手もとに移し、帰る準備を始める。それで会話はおしまいかと思っていたのに、彼はまださくらの前に立ったままだ。顔をあげて首をかしげた。 「川島さくらさんは、一年? それとも二年生ですか?」  話を続けようとする真っ直ぐな眼差し。大学に入ってから、こうやってさくらと話をしようとする男子学生にたびたび遭遇した。   さくらは女子校出身でどちらかといえば人見知りだということもあり、四年になった今でも、唐突に会話を投げ掛けられると、逃げ出してしまいたくなる。   けれど目の前にいるこの男の子には、そんな居心地の悪さは感じなかった。むしろフルネームで自分を呼ぶのがおかしくて、笑ってしまった。 「私、四年生なの。残念ながら大学生活最後の一年」 「よ、四年? マジすか?」  彼はかなり動揺したようで、元々大きな瞳をさらに見開いた。 「マジ、です。あなたは一年生だよね?」 「うん……あー、はい。一年です」 「一年生、羨ましいな。私もまだ大学にいたいけど、留年はいやだしね」  苦笑しながらそういって荷物をまとめ、じゃまたねと会釈して出口に向かう。 「あの!」  背中から響いてきた声。どこか慌てたようなその響きに驚いて振り返る。 「どうしたの?」 「あの俺、山谷新太っていいます。さくらさんは、また、来週この授業に出ますか?」
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