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声が少し震えていた。その掠れた低い声が、痺れるような甘い痛みと一緒にさくらの中で溶けて全身に広がっていく。
ほんの少し体を離して。一心にみつめあう。新太が口を開きかけた瞬間、急に横をむいて激しく咳き込んだ。
「大丈夫?!」
さくらが背中をさする。咳がおさまったあと、新太が照れたような表情を浮かべて呟いた。
「スイマセン……。風邪をひいているのを忘れて、キスしようとしてました」
「えっ……」
そんなことをしれっといわれ、呆気に取られたあと。なんだかおかしくなってきて、さくらはクスクス笑い出してしまった。
「さくらさん?」
新太が困ったようにさくらの顔を覗きこむ。その表情がなんだか可愛くて、愛おしくて。自分でも抑えられない衝動に背中を押され、ごく自然な流れでさくらは新太の唇に自分の唇を押しあてた。
ちゅっと軽い音をたてて、唇を離す。新太の大きな瞳がさらに大きく見開かれた。それをみて、さらに笑みがこぼれてしまう。
「私も。新太くんのこと好き。すごく好きだよ」
湧水のように言葉があふれでてくる。これからも枯れることはないとはっきり感じられるほど、強く、確かに。
わかり易すぎるくらいわかり易く、新太の顔が一気に真っ赤になった。それから。唇を両手で押さえて、勢いよく後ろにのけぞってそのまま、後ろに倒れてしまった。
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