第八章 恋がはじまる

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 いつのまにかスマホを操作していた手がとまって、視線が宙をさまよう。  黒目勝ちの瞳が閉じられて、ゆっくりとさくらがの顔が近づいてきた時。まるでスローモーションみたいだと思いながら、ぼんやり見つめていた。  唇と唇が触れた瞬間、なにかに感電したような衝撃が走った。心臓が壊れたのではないかと思うぐらい早打して、その鼓動が、体のなかでこだまするのを感じた。  音をたてて唇が離れたときのさくらの表情。年上の大人っぽさと色気を纏って私も好き、とあの柔らかな声で囁かれたら、完全ノックダウン。    自分でもこれはマズイだろうとおもうくらい顔が熱くなったから、間違いなく真っ赤になっていた。さらには間抜けな状態で後ろにのけぞって倒れてしまった。 (くそ。なんであのとき、あんなリアクションしたんだ。さくらさんが笑いだして、イイ雰囲気なんてどっかに吹っ飛んでしまったし。やっぱり恋愛経験値ゼロはイタイよなあ)  大きなため息をついたそのとき。いきなり結構な勢いで頭を叩かれた。  「いてっ」  慌てて顔をあげると、ケンだった。 「お前なに、百面相してんだよ。キモいぞ」 「なんだ、ケンか。いてーよ! いきなり叩くな」  不機嫌な声でそう答えると、ケンが笑った。 「珍しいな。お前がベンチにすわってぼんやりしているなんて。時間があればすぐに家に帰って、ゲームのトレーニングしてるのに」  「……うん。ちょっとな」  新太の交遊関係全般、ほぼ把握しているケンはニヤリと笑った。 「あ、さくらさんと待ち合わせ?」 「うるさい。お前、はやく行け」  しっしっと手を振る新太に、ケンはいよいよ笑みを深くする。
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