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いつのまにかスマホを操作していた手がとまって、視線が宙をさまよう。
黒目勝ちの瞳が閉じられて、ゆっくりとさくらがの顔が近づいてきた時。まるでスローモーションみたいだと思いながら、ぼんやり見つめていた。
唇と唇が触れた瞬間、なにかに感電したような衝撃が走った。心臓が壊れたのではないかと思うぐらい早打して、その鼓動が、体のなかでこだまするのを感じた。
音をたてて唇が離れたときのさくらの表情。年上の大人っぽさと色気を纏って私も好き、とあの柔らかな声で囁かれたら、完全ノックダウン。
自分でもこれはマズイだろうとおもうくらい顔が熱くなったから、間違いなく真っ赤になっていた。さらには間抜けな状態で後ろにのけぞって倒れてしまった。
(くそ。なんであのとき、あんなリアクションしたんだ。さくらさんが笑いだして、イイ雰囲気なんてどっかに吹っ飛んでしまったし。やっぱり恋愛経験値ゼロはイタイよなあ)
大きなため息をついたそのとき。いきなり結構な勢いで頭を叩かれた。
「いてっ」
慌てて顔をあげると、ケンだった。
「お前なに、百面相してんだよ。キモいぞ」
「なんだ、ケンか。いてーよ! いきなり叩くな」
不機嫌な声でそう答えると、ケンが笑った。
「珍しいな。お前がベンチにすわってぼんやりしているなんて。時間があればすぐに家に帰って、ゲームのトレーニングしてるのに」
「……うん。ちょっとな」
新太の交遊関係全般、ほぼ把握しているケンはニヤリと笑った。
「あ、さくらさんと待ち合わせ?」
「うるさい。お前、はやく行け」
しっしっと手を振る新太に、ケンはいよいよ笑みを深くする。
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