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小さなイタリアンの店でのランチ。授業の合間しか時間が取れないふたりの、つかの間のデートだった。
目の前にすわって食事する新太に相槌をうちながら、さくらはぼんやりとさきほどの光景を思い出していた。
同級生たちに囲まれた新太は、さくらが知っている新太とは違う人みたいだった。ちょっと不機嫌そうで、でも遠慮がなくて。少年っぽい、素のままという感じの新太。
彼はまだ十代で、これから四年も大学にいる。来年卒業して、社会人になる自分とは違う時間をすごす。同じ時間を共有できないもどかしさに、三歳の年の差がちょっと切なくなる。
「さくらさん?」
ぼおっとしているさくらを、コーヒーを一口飲んだあと、新太が声をかけた。
「どうしました? どこか具合でも悪い、とか?」
「ううん。そうじゃないよ。なんだかね、寂しいなって思って」
「え? 寂しい?」
新太の心配そうな表情の上に、戸惑いが上書きされて、さくらは慌てて微笑んでみせた。
「さっきね、みんなとすごく楽しそうに話している新太くんみたら、私には大学で新太くんと過ごす時間があまりないって気が付いて。寂しいなって思ったの」
新太は何度か瞬きしたあと、切なげに目をほそめた。
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