第八章 恋がはじまる

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 顔をあげると新太が穏やかな瞳でさくらをみつめていた。 「さっきのやつら、といってもケンともうひとり、あのうるさい女、チカっていうんですけど、あいつらとはもう十二年も一緒なんで、新鮮さもないし、あと四年も一緒かって感じなんですよ」  ため息まじりにそういったので、さくらはびっくりしてしまう。 「十二年って、もしかして小学校から?」  新太が頷く。 「言ってなかったでしたっけ。俺、小学校からうちの大学付属なんです」  びっくりして思わずえっ、と呟いてしまう。   「知らなかった。一人暮らしているから、てっきり大学受験したのかと……」  新太が笑いながら首を振った。 「ゲームばかりやっていたのに、外部受験じゃ受からないですよ。内部推薦もギリギリだったのに」  大学はマンモス校なのでさくらのような大学受験組が多い。ただ系列付属生も一定数いて、特に小学校からの付属組は、裕福な家庭の子弟が多いと聞いていた。  さくらはふと浮かんだ疑問を口にする。 「じゃあ、実家はどこにあるの?」 「品川区です」 「品川……。学校に通える距離なのに、どうして一人暮らし?」  それはですね、と新太はまじめくさって答える。 「家でゲームをやっているとうるさいんですよ、親が。集中できないし。だから大学にはいると同時に家をでたんです」 「えー! 部屋を借りるお金とか生活費とか、だしてもらえるの?」 「まさか。そんな金、うちの親が出すわけないですよ。自分でだしています。まあ学費は親がだしてくれていますけど」  淡々と語る新太の言葉にさくらは驚いてばかりいる。
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