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「仕事場での親父のあだ名、キューピーですよ? 確かに腹もでているからキューピーそっくりなんですけど、若いスタッフに、カワイイ通り越して愛らしいとか言われて、本人もまんざらでもない様子みると、げーーってなりますよ。俺も将来キューピーじゃね? って思うと絶望しかないですね」
よっぽど思うところがあるのか、凄い早口でそんなことをいうものだから、さくらは笑いがとまらなくなる。さくらさん笑いすぎ、と繋いでいる手をぎゅっと握られ、軽く睨まれる。
「ごめんごめん。なんだかツボにはいっちゃった。じゃあお母さんに似た、お兄さんと弟さんはどんな感じ?」
「うちの母親、女としてはきっつい顔をしているんですよ。でも男だとちょうどいいから、兄貴と弟はまあ、いいんじゃないかな。間違っても俺みたいにかわいいって言われる顔じゃないですね」
キューピーに似た父親ときつい顔の母親。母親似の兄と弟。
照れからなのか、ちょっと不貞腐れた表情で家族の事を話してくれる新太を、やっぱりかわいいと思ってしまう。そう言われるのは、嫌そうなので言わないでおこうとさくらはそっと微笑む。
新太がスマホに目を落として慌てたようにいう。
「あ、もう一時ですよ! もうすぐゼミの時間じゃないですか?」
そういわれてはっとする。腕時計をみると十二時五十分だった。
「ほんとだ。時間が経つのってあっという間すぎて」
新太をみあげると、頷いてちょっと目を細めた。
「ホント。早すぎますよね」
照れたように微笑んで、さくらの手を名残惜しげに握った。そんな新太の仕草に、やっぱりドキドキさせられてしまう。
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