第八章 恋がはじまる

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「仕事場での親父のあだ名、キューピーですよ? 確かに腹もでているからキューピーそっくりなんですけど、若いスタッフに、カワイイ通り越して愛らしいとか言われて、本人もまんざらでもない様子みると、げーーってなりますよ。俺も将来キューピーじゃね? って思うと絶望しかないですね」  よっぽど思うところがあるのか、凄い早口でそんなことをいうものだから、さくらは笑いがとまらなくなる。さくらさん笑いすぎ、と繋いでいる手をぎゅっと握られ、軽く睨まれる。 「ごめんごめん。なんだかツボにはいっちゃった。じゃあお母さんに似た、お兄さんと弟さんはどんな感じ?」 「うちの母親、女としてはきっつい顔をしているんですよ。でも男だとちょうどいいから、兄貴と弟はまあ、いいんじゃないかな。間違っても俺みたいにかわいいって言われる顔じゃないですね」  キューピーに似た父親ときつい顔の母親。母親似の兄と弟。  照れからなのか、ちょっと不貞腐れた表情で家族の事を話してくれる新太を、やっぱりかわいいと思ってしまう。そう言われるのは、嫌そうなので言わないでおこうとさくらはそっと微笑む。  新太がスマホに目を落として慌てたようにいう。 「あ、もう一時ですよ! もうすぐゼミの時間じゃないですか?」  そういわれてはっとする。腕時計をみると十二時五十分だった。 「ほんとだ。時間が経つのってあっという間すぎて」  新太をみあげると、頷いてちょっと目を細めた。 「ホント。早すぎますよね」  照れたように微笑んで、さくらの手を名残惜しげに握った。そんな新太の仕草に、やっぱりドキドキさせられてしまう。
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