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「じゃ、いきましょうか」
支払伝票をさっと掴むと、新太はたちあがった。
「新太くん、いいよ。前も払って貰ったのに。今度は私が……」
「俺、一応稼いでいるんですから。それは本当に気にしないでもらえます?」
さくらの言葉に苦笑を浮かべただけで、さっさとレジで精算してしまう。
「なんだか申し訳無いな。次は私に奢らせて?」
店を出たあとそういっても、新太は首を振る。
「ダメ。俺が払いたいから、払ってるんですから」
「うーん」
さくらが唸ると、新太がちらりとさくらの様子をみてから、いきなりそうだ! と声をあげた。
「え? なに?」
びっくりしたさくらに、いいことを思い付いたと子供みたいに笑う。
「それならさくらさんに、お願いがあるんですけど」
「うん、なあに?」
「今度、飯を作ってくれませんか? 俺の部屋で。あ、もちろん全然簡単なものでいいんですけど」
「えっ?!」
さくらは少しあせる。自宅通学のさくらは、日々の料理は母親任せだ。高校までは家庭科の調理実習で作ったメニューを家族に披露はしたけれど、大学生になってからは、ほとんど料理などしていない。
「うーん。私、あんまり料理できないからなあ。お腹こわしてもしらないよ? それでも食べたい?」
「食べたい」
即答する新太に、さくらは苦笑した。
「でも、キッチンになんの道具もなかったような気がするんだけど」
以前新太の部屋に行ったときの、ガランと何もない台所を思い出していた。
「ああ、実家に行けばなんでもありますから、使うものを教えて貰えれば、全部まるっと借りてきます!」
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