第八章 恋がはじまる

12/13
前へ
/253ページ
次へ
「じゃ、いきましょうか」  支払伝票をさっと掴むと、新太はたちあがった。 「新太くん、いいよ。前も払って貰ったのに。今度は私が……」 「俺、一応稼いでいるんですから。それは本当に気にしないでもらえます?」  さくらの言葉に苦笑を浮かべただけで、さっさとレジで精算してしまう。 「なんだか申し訳無いな。次は私に奢らせて?」  店を出たあとそういっても、新太は首を振る。 「ダメ。俺が払いたいから、払ってるんですから」   「うーん」  さくらが唸ると、新太がちらりとさくらの様子をみてから、いきなりそうだ! と声をあげた。 「え? なに?」   びっくりしたさくらに、いいことを思い付いたと子供みたいに笑う。 「それならさくらさんに、お願いがあるんですけど」 「うん、なあに?」 「今度、飯を作ってくれませんか? 俺の部屋で。あ、もちろん全然簡単なものでいいんですけど」 「えっ?!」  さくらは少しあせる。自宅通学のさくらは、日々の料理は母親任せだ。高校までは家庭科の調理実習で作ったメニューを家族に披露はしたけれど、大学生になってからは、ほとんど料理などしていない。 「うーん。私、あんまり料理できないからなあ。お腹こわしてもしらないよ? それでも食べたい?」 「食べたい」  即答する新太に、さくらは苦笑した。 「でも、キッチンになんの道具もなかったような気がするんだけど」  以前新太の部屋に行ったときの、ガランと何もない台所を思い出していた。 「ああ、実家に行けばなんでもありますから、使うものを教えて貰えれば、全部まるっと借りてきます!」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加