第九章 牽制

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「あっちーな。気温は高くないのに、ムシムシしてる。スーツ暑すぎ」  司はリクルートスーツを着ているせいで、余計暑さを感じた。社会人になったら、毎日着なきゃいけないのか。そう思うと必死でやっている就職活動の意欲が減退してしまいそうだ。 「三井、今日最終面接だっけ?」  ゼミ仲間の朋美が尋ねる。今日はゼミがある日。たまたま駅で会って一緒に学校に向かって歩いていた。 「そ。ゼミ終わったら、M社の本社行くよ。最終役員面接」 「へー。すごい。M社って本命だよね。もう少しで就活終わりだね」  朋美が感心したように頷く。 「おかげさんで」  司はあえてさらっとした調子でそういう。朋美の就活はまだそこまでたどり着いていないから、あまり深い話をしないように気遣う。朋美はそんな司の横顔をじっとみたあと、呟いた。 「三井って軽くみえるけど、なんだかんだいって努力家だもんね」  確かに努力家タイプなのだが、そう言われるのは気恥ずかしい。 「軽くみえる、は余計」  不意に褒められて、浮かんでしまった照れをごまかすようにそういうと、朋美が笑った。 「二年生のときに一年間アメリカ公費留学、去年の夏休みもセブ島の英語学校に一ヶ月缶詰めして、TOEIC九百点オーバーまでもっていったんでしょ。今スペイン語も勉強しているんだっけ?」 「あー、うん。まだまだ全然ダメだけど、なんとか卒業までには会話できるくらいにはしたいとは思ってる。まあ、でもムズい」 「徹底しているよねえ」 「大学入ったときから商社希望だったからな」
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