第九章 牽制

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「そうはいっても、入学早々ゴール設定して、準備するとか中々できないよ。三井ってさりげなく優良物件だよね」 「は? なに、その優良物件って?」 「彼氏にしたい、の更に上、旦那さんにしたいひと。超優良物件だね」 「はー。物件扱いかよ。ひでえな」 「私なりに全力で誉めているんだけどなあ」  朋美がからかうようにわらうから、思わず軽口を叩く。 「なに朋美、俺に惚れた? つきあってみる?」  朋美は案外真面目に思案してみせて、司をちらりと見る。 「そうだなあ。三井がちゃんと私を好きならいいけど、さくらを好きなままでつきあうなら、イヤ」 「なに、そのマジな回答。しかもおまえ、彼氏いるだろ!」  思わずツッコミをいれると朋美も舌をだす。彼女のこういうノリを、司は結構気に入っていた。  学校構内にはいって、エレベーターのある方へ向かおうとすると、朋美があのさ、と声をかけてきた。 「階段でいかない? 最近就活忙しくて運動していないから、太っちゃったんだよね」 「教室四階だぜ? スーツ着ててもうすでにめっちゃ暑いし、階段なんか上ったら汗だくになるんだけど」 「ふーん。いいよ? 三井はエレベーターでいって。私は階段でいくから」  手をひらひらさせて、ひとりで行こうとする朋美に、司は大きくため息をついて仕方ねえなあといいながら、一緒の方向に歩きだした。朋美がちょっと司をみつめてからクスリ、と笑う。 「なんだよ?」  司が不機嫌まるだしでそういっても、朋美はまるで気にしない。 「三井ってひねくれてるけど、なんだかんだいって気を遣ってくれる人だよね」
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