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「ひねくれてる、も余計だ。おまえ、いつも人を誉めるときに、ヒトコト多いんだよ」
そんな調子で冗談をいいあいながら、二人は校舎の裏側にある階段に向かう。基本ほとんどの学生がエレベーターを使うから、階段付近は人気がない。
「あれ? あそこにいるのってさくら?」
朋美がたちどまって、階段の踊り場に視線を向けたから、司もそちらをみる。
さくらともうひとり、男が見える。いつもは感情が抑えめで凛としているさくらが、花でも咲いたような笑顔で楽しそうにくすくす笑っている。
司にはよく見なくても、相手の男が誰だかすぐにわかってしまう。胸がキリリ、と痛んだ。
「珍しい。さくらが男の子とこんなところで楽しそうに立ち話。しかも彼、すごくカワイイ顔をしてる。年下だよねえ。誰だろ」
朋美が暢気に呟くのを聞きながら、階段の下にいるさくらたちをじっと眺めた。
さくらが手を振って、ひとり階段を昇ろうとする。すると彼がさくらの手をとってなにか囁いた。ふたりの顔が近くなる。彼はさくらの頬にごく自然に触れる。さくらが少女のような、はにかんだ笑顔を浮かべるのが遠目でもわかった。そっと離される手。さくらがもう一度、手を振って階段を昇っていった。
「この光景は……」
朋美はそういって絶句し、恐る恐る横にいる司を見上げた。司はそちらを見つめたまま、無表情で呟いた。
「つきあっているんだろうな」
素っ気なくそういう司を、朋美は驚いて見上げた。
「なんか、知っていたような口振り。ていうか、余裕?」
司は苦笑する。
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