第九章 牽制

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「余裕なんかないわ。ただ、もう付き合っていたとは知らなかったけど、予想はしてた」 「そうなの?」  朋美が大きく息を吐いたそのときだった。 「三井さん、ですよね?」  その彼がいつのまにか司たちの前まできて、話しかけてきた。朋美はひどく驚いた様子で、あっ、と小さく声にだしかけて飲み込んだ。   司は反射的に笑みをうかべる。感情をみせないための武装。得意の皮肉っぽい笑み。 「ARATAに名前を覚えてもらっているなんて光栄だな」  そういって、無遠慮に目の前にいる新太を見つめた。新太も平然とみつめかえす。お互い睨んでいるくらいの勢いだ。 「え……なに、ふたり、知り合いなの?」  朋美が戸惑ったようにいう。いや、といいながら司は首を振る。 「知り合いっていうか、カフェテリアで会ったことはあるけど、しゃべったのはこれが初めて。でも俺は彼が高校生だったころから、顔は知ってる」 「なにそれ。話が全くみえてこないんだけど」  朋美がそういって困惑した表情を浮かべたあと、新太が口を開いた。 「さくらさんと俺、つきあっているんです」 「えっ!」  淡々と、けれど悪びれる様子もなくそういう新太に、思わず声をあげてしまったのは朋美だった。すぐに廊下に響いてしまった声を抑えるように口に手をあてた。  司は表情をかえることなく、皮肉っぽい笑みを浮かべたまま、頷いた。 「あんなシーンを見せつけられたら、言われなくてもわかるよ。プレイスタイルと同じだな。クールに相手にダメージをあたえるってやつ?」  新太の眉が微かに動いた。
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