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一瞬新太が息を呑んだのがわかった。多少なりともダメージを与えた感触を得て、司は溜飲を下げる。新太はしばらく司を見つめたあと、一瞬だけ瞳を伏せて、すぐに何かを決したように顔をあげた。
「時間はどうにでもできます。だから……」
「だから?」
新太が睨むようにして司をみつめる。
「どっちもとります。トップもさくらさんも」
淡々と、けれど熱を帯びた瞳をして言い切った。司は表情を取り繕うことも忘れ、まじまじと新太を見つめる。
新太のいうことが、けっして容易い事ではないのは、素人なりにもわかっている。けれど新太がいうとなぜか、リアリティーをもって響いてくる。そんな彼のオーラを振り払うように、あえて冷笑を浮かべてみせる。
「すげえ自信だな」
「自信があるとかないとか関係ないんです。やるしかないんで」
真っ直ぐな瞳をしてそう言う新太の表情に、相当の覚悟があることはみてとれた。生半可な気持ちでさくらと付き合い始めたのではないことが、はっきりと伝わってくる。
短期間でさくらの心を掴む何かを持っている男。やっぱり腹が立つし、嫉妬もする。それでもそんな感情を表だっては意地でもみせられない。
「まずはお手並み拝見、だな」
司の言葉に新太が片方の眉をあげた。その刹那、耳元に新太にしか聞こえない小声で囁く。
「但し。おまえがさくらを泣かせたら、横からかっさらう」
嫉妬と意地と切なさ。それらをすべて詰め込んだ本音を吐き出す。その言葉に新太は大きく瞳を見開く。それからぎゅっと目を細め睨むと、泣かせたりなんてしませんから、とぶっきらぼうな調子でこたえてきた。
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