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本音をこぼすと、朋美はそうなんだと呟いてふと真面目な顔で尋ねる。
「それでも、やっぱり三井は、……さくらのことを諦めないんでしょ?」
「……どうだろうな。他の誰かを好きになるかもしれないし。先のことはわかんないよ」
口ではそうはいっても、他の女の子とつきあってみても、さくらほどドキドキさせられる女の子には出会えないのも事実だった。
凛としていて決して媚るところはないのに、時折みせる艷やかさ。大人っぽい表情をふっと崩して浮かべる無邪気な笑み。話をしていても明快で、心地よくて。その心地よさに浸っていたら、いつの間にか気持ちをもっていかれていた。
二十二年の人生で、振られてもこんなにしつこく想ってしまうのは、さくらが初めてだった。けれどあまりにも生産性のない、不毛な恋だ。らしくないよな、と心のなかで呟く。
しばらく司の顔をみていた朋美が柔らかく微笑んだ。
「まあ、がんばれ。骨は私が拾ってあげるから」
司は思わず吹き出す。
「骨を拾うって、表現古すぎ。朋美、ほんとは昭和生まれだろ?」
「は? ボキャブラリーが豊富といってよ」
そういって頬をふくらませている朋美に少しだけ気分が和む。もう目の前には、さくらがいるだろう小教室。大きく息を吐いて表情を緩めてから、そのドアを開けた。
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