第十章 もっと知りたい

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 司は見た目も悪くない。というか、悔しいことに結構いい方だろう。スーツ姿はもう社会人といっても違和感がない。大人の男という雰囲気だ。さくらの話によると、なかなか優秀でもあるらしい。  そんな奴がずっとさくらの側にいる。そう思うと落ち着かないし、とにかく気分が悪い。いくらさくらにその気がないとはいえ、心配の種は尽きない。絶対に誰にもさくらを渡したくない。 「新太くん! すごいね。一気に台所用品が充実してる!」  台所から響いてきた嬉々としたさくらの声に、物思いから一気に醒める。慌てて荷物をもって台所にいくと、さくらが楽しげに並んだ台所道具を見ていたから、引き結ばれていた新太の口元も自然と緩む。 「さくらさんから指定された道具、家から持ってきましたよ」  フライパン、フライ返し、なべ、ボウル、ざる、さいばし、おたま、お皿、カトラリー各種。それらは母親に確認しながら実家の台所からざっくりかき集めてきた。予想通り、新太が急にこんなに沢山の台所用品を使うなんておかしい、怪しい、と散々突っ込まれた。  母親がうるさいのはいつものことなので、友達と料理を作ることになったから、と繰り返して面倒な質問はスルーした。ただし、態度がわるいから貸さないと言われるのも厄介なので、たまにハイハイと相槌をうったりして珍しく気も遣った。  少し前の新太に比べると、かなり大人な対応だったようで、母親は終始機嫌がよかった。そんなふうにして母親の詮索攻撃をかいくぐり、それなりに苦労して持ってきた道具を喜んでもらえるのは単純に嬉しい。
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