第十章 もっと知りたい

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 ひとつ呼吸して、そう自分を叱咤するけれど、さくらの気配を感じている今、百パーセントの意識を集中させるのは、至難の技だった。 「百が無理ならまず八十。あとはやりながら集中」  いつものように口に出して自己暗示をかける。以前はただ、がむしゃらにプレイしていたけれど、プロになってからはメンタルコントロールを心掛け集中力を高めるようにしている。  それでもさくらがそばにいると思うと殊更、集中するのは難しく、その姿がどうしても脳裏にちらつく。 (いつもの妄想だったら、どうにか短時間でコントロールできるようにはなったけど、実際にさくらさんがそばにいるとなると、意識の持っていかれ方が全然違う)  新太は苦笑するしかない。これじゃダメだ、とも思う。どんな状況でもすぐにプレイに集中できるようにしなければ、ゲーマーとしてのクオリティが落ちてしまう。ちらりと司の顔が頭に浮かんできて首を振る。 (とりあえず六十パーセント集中して……)  ハードルを低く設定する。そうやって悪戦苦闘しているうちに、時間はいつもよりずいぶんかかったけれど、どうにか意識すべてをプレイに投入させることに成功した。その状態になれば、無になってひたすら同じ技を連打し、入念に調整する。何度もしつこいくらい繰り返す。  どれくらい時間がたったのかわからない。ふっと両肩に温かい感触を感じて、椅子から飛び上がった。振り返ると、新太の肩に両手を置いたさくらがくすくす笑っていた。 「あー、びっくりした」
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