第十章 もっと知りたい

9/10
前へ
/253ページ
次へ
 いったん唇を離す。緊張が緩んだように、さくらがほっとした表情を浮かべたのをみた瞬間、衝動的に体ごと引き寄せる。椅子の下にすわりこむ形になったさくらを、閉じ込めるように抱きしめた。  両手でそっと頬を包み、みつめあう。ふたりの間にある小さな空間。そこにある空気の密度が息苦しいほど濃くなっていく。それらに後押しされるように、唇が重なる。呼吸を交換するように何度も角度をかえたあと、新太は舌を深くさしいれる。  どこかためらいがちな彼女の舌に焦れる。無意識に強引に絡めとってしまう。動きはどんどん激しさを増す。溺れた人が助けを求めるように、さくらが苦しげに唇を離した。彼女の胸が大きく上下して、ひとつ大きな吐息をついたあと、消え入るような声で呟いた。 「あ、新太くん……御飯が……」  新太はその声にはっとした。一生懸命作ってくれた晩御飯を、このまま放置するわけにはいかない。  それでも未練たっぷりにさくらを強く抱きしめて、その首筋に顔をうずめる。爽やかな百合のような香りがして、余計昂りそうになった。  内側で燻る熱を冷ますように大きく息を吐く。目の前にある白い首筋が新太を誘ってくる。我慢できずにそこに唇をつけて軽く吸ってしまう。  さくらの体がぴくり、と震えた。性急すぎた行動をちょっと反省したら、心の針がレッドゾーンから正常値方向に少し戻った気がした。 「さくらさんが作ってくれた御飯、食べます」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加