第十一章 好きだから

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「こんな短時間によくこれだけ作りましたね。ハンバーグにサラダ、あとこの冷たいスープ? めっちゃおいしい」  ドキドキしていることを気づかれないよう、さくらは殊更明るく舌をだしてみせた。 「種明かしをしちゃうと、ハンバーグとサラダは家で練習したから、段取りが頭に入っていて早くできたの。ビシソワーズは作ってきちゃった。ちょっと時間がかかるし、ミキサーも使うから」 「えっ……」  さくらの言葉に新太が表情を曇らせた。 「準備大変だったんじゃないですか……。なんか俺、かえって面倒くさいことお願いしちゃいましたよね。さくらさん、忙しいのに」  そんなふうにさりげなく気遣ってくれる新太の気持ちがうれしい。ゆっくり首を振った。 「そんなことないよ。新太くんが美味しそうにたべてくれるの、すごくうれしいから。新太くんさえよければまた、作りたいなって」 「本当に?」  新太の心から嬉しそうな表情に、さくらも自然と笑顔になって頷く。彼氏のために料理を作る。以前のさくらなら、典型的な女子アピールみたいで気がひけたし、そんなアピールをしたいとも思わなかった。  けれど、つくってみてよくわかった。とてもシンプルなこと。好きな人が、喜んでくれるのがただ嬉しい。別にそれが料理でもなんでも構わない。彼の笑顔がみられるだけで幸せな気分になってしまうのだということを。  新太を知ればしるほど、彼のことが好きなのだと実感してしまう。ゲームをしている新太を見たときもそうだった。真剣な表情をしてゲームに集中している新太の横顔に釘付けになった。
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