第十一章 好きだから

4/9
前へ
/253ページ
次へ
 落ち着き払っているのにどこか鋭いその瞳は、ゲーム画面が映るモニターをクールにみつめ、怖いくらいのスピードで手元のコントローラーを操っていた。さくらは、ゲームというものはもっと楽しく、熱くなってやるものだと思っていたから、そのギャップにも驚いた。  本気で何かに取り組んでいる男の顔。新太の持つ、別の顔にぎゅっと心臓を掴まれたようにドキドキさせられてしまう。  一方でさくらがいくら見つめても、全く気がつく様子のない新太の集中力にも驚かされた。誰にも邪魔できない圧倒的集中力。  彼を別の世界に連れて行ってしまうゲームに、嫉妬を感じてしまうくらいだった。新太の肩に無意識のうちに手を置いてしまったのは、さくらのいる世界に、彼を引き戻そうとしてしたのかもしれない。  そんな気持ちを感じたのは初めてだった。新太を好きになって、どんどん自分が変わっていく。いままでつきあった他の誰にも感じたことのない感情、感覚。  新太だけが、さくらの視界も気持ちもすべてを占領してしまう。ずっと彼をみていたいと思うし、彼にも見ていてほしい。もっと彼のことを知りたい。手を伸ばして抱きしめ、その体温を感じたい。  いままでの恋愛未満の付き合いとは明らかに違う。食事のまえにしたキスも。このまましていたい。ずっと抱き締めて欲しいと思ってしまった。   切実で強いこの気持ち。さくらはどうしていいかわからなくなる。今までこんな気持ちになったことなどなかったのだから。 「さくらさん? どうかした?」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加