第十一章 好きだから

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 真面目な顔をした新太に覗きこまれた。考えていたことを見透かされてしまいそうで、ちょっとどぎまぎしてしまう。 「ううん。少しぼおっとしていただけ」 「疲れちゃった?」  気遣うようにみつめてくる新太に、さくらは胸に温かいものを感じながら首を振る。 「あさって、内定者説明会あるなあって思い出したの」  慌てて言い繕ったけれど、実際に大手銀行の内定をもらい説明会を控えていた。新太がああ、と呟いて頷いたあと、楽しげに微笑んだ。 「内定のお祝い、考えていますから。ちょっと待っていてくださいね?」 「いいよ、お祝いなんて。新太くんに最初におめでとうって言って貰ったのだけで、すごく嬉しかったから」  内定がでて、誰よりも最初に連絡したのが新太だった。携帯から響いてきた、さくらの大好きな、ちょっと低いクリアな声。  おめでとうございます。良かったですね。お疲れ様でした。包み込むようなそれらの言葉に肩の力が抜けて、就活が終わったんだと実感したのを思い出す。 「いやいやいや。させてください。というか、します」  キッパリそう言われて苦笑する。新太が一回決めたら後には引かないのも、さくらはもうわかっていた。 「でも俺、これから夏休みもずっとスケジュール立て込んでいて、なかなか会う時間が取れないかもしれなくて」  新太が大きくため息をつく。 「そうなの? 忙しいの?」  ちょっと寂しい気持ちを隠すように明るい声で聞いてみる。 「夏休み中ほとんど海外にいることになりそうなんです。アジア遠征で」 「え……」
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