第十一章 好きだから

6/9
前へ
/253ページ
次へ
 普段も中々会えないのに、夏休みもしばらく会えないなんて。今度こそショックを隠しきれなくなってしまいそうで、手のひらをぎゅっと握りしめて耐える。 「韓国にいって、次は香港、そのあとシンガポールの大会にでる予定なんです。一旦帰国しても、スポンサーとの打ち合わせとか、イベントとか、結構ガッツリはいっていて」  この人は本当にプロのゲーマーなのだと、さくらは実感してしまう。  さっきしていたようなトレーニングを長時間して、大会に挑む。いくら時間があってもたりないはず。プロとして賞金を稼ぐということが、どんな世界であっても厳しいのはさくらでもわかる。  そんな最中、さくらと会う時間を無理して作ってくれていることは、トレーニングでの集中力をみても明らかだった。だからこそ、わがままなんか言えない。たとえ、もっと一緒にいたいという思いがさくらの心を締め付けていたとしても。  本当の気持ちをさりげなく伝えるために、程よく拗ねてみせる。そんな可愛げある女の子の高等技術など思いつかない。長女気質、さらには三つも年上だという気持ちが、持ち前の淡泊な雰囲気に拍車をかけてしまう。 「……そっか。頑張ってきてね」  いつもどおりを意識して、さくらとしてはかなり頑張って微笑んでみせた。新太は切なげにさくらを見つめたあと、はあとため息をつく。どうしたの? と首を傾げると新太が苦笑した。 「いや、そう言ってもらえて嬉しい反面、あっさりそういわれちゃうのもちょっと寂しいかなって」
/253ページ

最初のコメントを投稿しよう!

250人が本棚に入れています
本棚に追加