第十二章 可愛いひと

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 JR渋谷駅の山手線ホーム。新太は荻窪にあるさくらの自宅まで送るため、人混みのなか、ふたりで電車を待っていた。手を繋いだまま何も話さない。けれどさくらの体温を感じるだけで、新太は満たされていた。さくらに視線をむけると、ちょっと照れたように微笑んで頬を染めて俯いてしまう。 (可愛すぎる……)  新太はまた自分の内側からわきあがってくる熱を逃がすよう吐息をついてから、さくらの耳許に口を寄せた。 「さくらさん」  ぴくりと肩を揺らしてから、さくらが新太をみあげる。 「やっぱり帰らないで欲しいんだけど」  困ったように眉を寄せてみつめる感じに、新太はまた痺れる。 「ゴメンね。ウチ、外泊厳しくて……」  門限があるくらいだから、いきなり外泊なんて厳しいことはよくわかっている。けれどさくらの困った顔がみたくて、でもなにより一緒にいたくて、無理難題をふっかけたくなってしまう。 「うん、だよね。無理言ってごめん」  そのままさくらの耳たぶを甘く噛むと、耳全体が紅く染まる。さくらがあわてて耳を押さえた。 「新太くん!」 「はい、スイマセン」  つい声を出して笑ってしまう。紅色が溢れ落ちて広がるように、耳から顔全体が赤く染まったさくらが睨んでくるけれど、怖いどころかどうしたって可愛すぎる。三つも年上なんてことも、すっかり忘れてしまう。
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