第十二章 可愛いひと

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 他人からみればさくらと一緒にいると新太が子供っぽくみえてしまうかもしれない。けれど周りの視線など、それがどうした、と挑発したいくらいだ。  さくらを抱いて、好きだという気持ちがさらにクリアで強いものになったから、他人の目なんかもう気にならない。  さきほどまでずっと新太の腕のなかにさくらはいた。思い出すだけで、いてもたってもいられないような興奮と、胸が苦しくなるほどのいとおしさがこみあげてきてしまう。  幼女のようにどこか頼りなくて、それでいて女の艶やかさを秘めた潤んだ瞳。電気を消した部屋にぼんやりと浮かび上がった白い裸身。白くて吸い付くような肌の手触りも、胸の頂を口に含んだときに洩れる、耐えるような甘いため息も。  さきほどまでのことを思い出すだけで、人混みのなかにいるというのに体が熱くなってしまう。顔があかくなっていないだろうかと、新太は心配になる。  夜9時すぎ、山手線の車内はかなり混んでいる。なんとかドア横のスペースを確保して、新太が壁になり、さくらのまわりに空間ができるように配慮する。 訳がわからない輩が、さくらに触れるなんて有り得ない。  けれど電車を毎日使って通学しているさくらは、人混みは避けられない。心の中でため息をつく。悶々としている新太をみつめていたさくらが、微笑んだ。 「そんな難しい顔をして何を考えているの?」  まるで新太の気持を読んだようにそう言われ、つい苦笑する。 「なんでもないです」
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