第十二章 可愛いひと

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 「どうしたの?」  そう尋ねたさくらも笑っている。同じことを考えているのがわかる。そんな空気を共有している感覚が、たまらなく心地いい。  さくらが口を開きかけた瞬間に、その唇を食むように奪う。チュッと音をたててから離すと、恥ずかしそうに視線を落とす。その目許にもそっと触れると、熱を帯びたため息をひとつついてから、顔をあげて苦笑した。 「話をしようっていっていたのに、いきなりキス?」 「話はするよ? その前のキス」  悪びれずにそういうと、さくらが困ったように笑った。 「新太くんどんどんイメージかわってきた」 唇をほんの少し尖らせていう。けれど、新太を見つめる瞳は甘く潤んでいるから、ただひたすらに可愛いとしか思えない。 「どう変わったの?」 「最初はふわふわの髪の毛がうちのしーちゃんに似てて、おっとりしたかわいい男の子だなって思ったの」 「しーちゃん?」  首を捻ると、さくらがいたずらっぽく微笑んだ。 「うちのアイドル犬。ポメラニアンのしーちゃんっていうの。新太くんが、しーちゃんに似ているなって思ったら、初対面なのに無意識に髪の毛触っちゃった。びっくりしたでしょ?」 「あー、あれ、そういうことだったんだ。俺、そんなにしーちゃんに似てる?」  教室でさくらと初めて会った時を思い出して小さく笑う。 「すごく似てる。しーちゃん、すごくかわいいんだよ? あ、でもやっぱり嫌、かな」 「全然。しーちゃんと似ていたから、俺、さくらさんと仲よくなれたんだろうし。で、しーちゃんのイメージから、今はどうかわったの?」
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