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「アンタ、玖堂サンの居場所を知ってるでしょ。連れてって。吐かないなら殴る」
「って今度は物理で来たし! さっきの人形ちゃんも、相当の破壊神だったけどさー」
「召使ちゃんを壊したのはアンタ? なら許さない」
瞬時にそこで、雷夢は不良の胸ぐらを掴んで締め上げた。
後ろでうわああ、とナオが驚いている。しかし華奈への心配の方が強いようで、雷夢の速断を止めには入ってこない。
「ちゃうちゃう、あんな人形ショートさせるの、真夜の姉御でもないと苦労するってェ! 俺はあんたを連れてくるよう言われたワケ、んでもって人間ボーイの方は本当は人払いしなきゃ駄目ってわけ!」
それでおそらく、アオイの姿でナオを違う所に連れて行こうとしたらしい。わざわざ事情を説明してくる相手に、雷夢は青い両目をきつく細めた。
「……確かに、ミカミ。アンタがついてくると、死ぬかもだけど」
「え!? や、やだよ、俺だけ置いてかないでよ、俺だって玖堂さんを助けたいし!」
「…………」
昨夕に不自然に、ひと気のなかった商店街を思い出す。雷夢もそうだが、人間だらけの日本の街で、人間でないことを見られるのは向こうも嫌なはずだ。だからナオを排除したがっている。
人間を害してはいけない、と雷夢は教えられてきた。それは倫理の問題もあるが、化け物の力を人間の世界で振るえば、警察のみならず人間界の番人に咎められる、とユーファは言っていた。
「いいよ。私の後ろから離れないならついてきて、ミカミ」
だからここでは、人間であるナオを連れて行く方が、相手には不利なはずだ。雷夢も確信は持てずに、ナオを守らなければいけないことが頭が痛いが、一人で残して校舎裏の杉浦嬢のようになっても困る。
そんな雷夢の頭痛をよそに、ナオは気丈に、うん! と、不良の背中を掴んで歩かせる雷夢に続いてきたのだった。
気持ち悪いほどアオイによく似た自称代打は、わざわざ人目につかない道を通って、雷夢とナオを街外れの廃工場にまで連れていった。いかにも殺伐とした鉄線に囲まれる立ち入り禁止区域に、南中した太陽が雲に阻まれて仄暗い影を落とす。
「警備どうなってんの、ここ」
「姉御が人払いをしてますよっと。お互い遠慮なく、全力出せた方がいいだろ」
そう、とそこで、雷夢は代打の背中を離した。道中特に抵抗もなかった代打は、アオイと同じように魔力は強いが、腕っぷしは弱そうな相手だった。
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