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「なーなー。雷夢ちゃん、元気ー? 週末、どっか行かねー?」
もういったい、軽さしかないこの声色に、何度睨みを返してきたことだろう。
雷夢にこうして、塩対応を受けても気にしないアオイは、今日も金髪と笑顔が胡散臭い。
「行かないし。いい加減、私に絡まないで。迷惑」
雷夢はこの中高一貫制である学校に、中学の終わりから帰国子女枠で転校してきた。アオイはその時から既にいたが、アオイも中二の終わりからの編入組だと最近きいた。屋上でぼけっとするのが好きな雷夢の元に、性懲りもなく度々現れてくる。
寡黙な雷夢とはタイプの違うアオイと、つるむ気は雷夢にはなかった。しかし高校に上がって少ししてから、痛いところを突かれてしまった。
「あんたの正体、オレは知ってるぜ? 人間じゃないっしょ、雷夢ちゃん」
アオイは様々な意味で、雷夢の感じている現実の斜め上をいく。
「オレもさ、実は魔王なんだよねー。雷夢ちゃんも相当、妙に強いなんかっぽいけど、どー? 人外同士、オレと付き合わねえ?」
何で。とつっこむ以前に、「魔王」って何だ。そんな強そうな単語にはとても見えないひょろひょろの不良に、雷夢はいつも言葉に困る。
その気配には本当は、雷夢も気がついていた。春日蒼帷と名乗る生徒は、常に蒼い石の指輪を身にして気配を隠しているが、日本人などとは到底言えない魔力の持ち主のはずだ。雷夢はある事情で、日本に身を隠していると言え、自分の周囲に現れる人外生物には注意をしてきた。
魔力とは雷夢の持たない力で、魔道に長けた魔族に多いもの、と死んだ母にきいた。魔族というのも、ヒトの魂や血を糧にする生き物、としか知らない。ましてやその「王」のことなど、はぐれ者の雷夢にわかるわけもない。
「……いい加減、そのふざけた名称、名乗るのやめたら?」
「あー、やっぱり信じてないなァ? オレこう見えても、人間世界で気配を隠すの、それなりに苦労してんだけどさァ?」
そう言われると、雷夢がずっとお守りのペンダントで隠してきた気配を、気取られてしまったことは確かに非凡だ。雷夢は育ての母に、決して正体を気付かれてはいけない、と言われてきた。だから転校を繰り返してきたのに、この自称魔王は半年程度で、雷夢をロックオンしてしまった。
「……うざ」
とりあえずそれしか、思うことがない。自称魔王がどうして雷夢と同じように、人間のふりで高校に通っているのか、興味を持つ気にすらもなれない。
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