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それでも「強い魔力」と感じる程度には、アオイの気配は異端ではある。ただしアオイ本人はこれまで、何度も雷夢にノックアウトされ、その都度「人間世界でなけりゃ!」と遠吠えをする。
放課後の屋上を後にした。追いかけてくるアオイを簡単にまいて、駅前に出た雷夢は、さびれた商店街をのんびり歩いた。
「高校に上がってから、絡んでくる奴、大分減ったな……」
何処から見ても、雷夢は無愛想だと言われる。否定をする気は特にないが、雷夢によく話しかけてくる玖堂華奈のように、笑顔が当たり前の相手の方が不思議に感じる。
不機嫌な顔で街を散歩していると、何故かよく同年代のチンピラに絡まれ、軽く相手をしただけなのに気付けば怖れられていた。華奈はそんな雷夢を「仕方ない人ね!」と、楽しさを隠せない顔で付き合ってくれるので好きだ。おそらく根っこは雷夢よりも、華奈の方がよほど好戦的な人柄に見えた。
大富豪の娘である華奈は、何がしかによく狙われている。暇なので雷夢が近くにいる時は逐一虫払いをしていたら、遊びに連れていってくれたり広大な家に招いてくれたり、勉強を教えてくれたりするようになった。人間でない雷夢にとって、勉学などはほとんど余計なお世話なのだが、どう人間でないかもよくわかってはいないので、とりあえず「日本」で生きるにはいるかな、と渋々教えられている。
「……でも……」
何となく、感じていた。この恵まれた高校生活は、終わりが近づいている。
いつかは帰らなければ。そう思い続けている爪痕があった。制服の下に着けているお守りのペンダントは、強くなりたいと雷夢が願っている理由だ。
青白く燈る小火を宿した、透き通る薄蒼い玻璃のような玉。小さなペンダントトップは、目をこらさないと中の火がよくわからない。
夕暮れになってくると、見え易くなる。今日もちゃんと燃えてる、と、聖夜前の三日月にかざしながらほっとした。
そんな束の間の大事な日課を、もっと聖なる火の持ち主に見られているとは知らずに。
「あら。何かいいもの、持ってるじゃない?」
へ。人の気配がしない商店街の三叉路、屋根の節目で一人、お守りを取り出したつもりの雷夢は呆然とした。顔には動揺を出さないでいるが、その涼やかな声には一瞬にして、寒気を感じる何かがあった。
静かに振り返った先、黄昏時のシャッター通りで、雷夢の青い目に映った玲瓏な声の主は。
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