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「……何、その恰好」
雷夢は思わず、つっこみを先に出してしまった。
日本の都会の裏通りには、あまりに不似合いな赤い迷彩柄の軍服。長い茶髪をまっすぐなびかせ、派手な軍服と同じ赤い目の女が、数メートル先で雷夢を見ていた。
「あらあら、これでもこちらに合わせたつもりなんだけど? でも、そうね……貴女みたいな可愛い制服には、さすがに敵わなかった」
ふふっ、と軍服の女が、自分をお茶目に見せたいように笑う。しかし赤い目の奥には確実に殺意が灯り、軍服の方が正直だ、と雷夢は呆れて思ってしまった。
「いや……意味、わかんないし」
雷夢が呟いた瞬間、軍服にふさわしい大きな白い拳銃を女が構えた。
やばっ! と咄嗟に横に跳ぶと、雷夢の頭があったところを光の塊がまっすぐ飛んでいった。
「あら、避けちゃうの? 楽に仕留めてあげようと思ってたのに」
「っ――!」
全く心当たりがないが、軍服の女は本気だった。出会い頭から雷夢に殺気を向けて、速攻で勝負をつけにきている。
この辺りにひと気が無くなっているのを、もう少し訝しむべきだったのだ。いくら大通りからは外れると言っても、日本の都会で人の鼓動が全くない場所などそう存在しない。
軍服の女は拳銃としても不思議な、光を撃ち出す武器を連続で放った。
狭い路地の中では逃げられる場所が少ない。後退しながら光の弾を避けることに、雷夢が限界を感じ始めた直後のことだった。
「――って、マヤ!? お前、何してんだぁ!?」
呑気なようでいて、声色にはいつにない重さが混じったアオイが、通りの入り口から顔を出した。
「あら、ご機嫌麗しゅう、ルシフェルト殿。ちょっとお待ちあそばせ、お話はそこのお邪魔物を片付けてからね?」
「って――何、言って――!」
そこでアオイが、必死の顔付きで雷夢と軍服の女の間に入った。それは雷夢も、そして軍服の女も、思わずぽかんとしてしまう意外な展開だった。
そもそもアオイは、常にノリが軽くてマイペースで、こんなに素早く、かつ人外の速さで行動することなどない。軍服の女もそう思っていたようで、女の本気を雷夢と同じように感じて焦ったらしいアオイを、雷夢は少し見直していた。
しかし次の瞬間、あまりにいつも通りのアオイに、また頭が重くなった。
「オレのヨメに、何してんだよ! マヤ!」
誰が。それだけをぽつりと溢した雷夢に、軍服の女はひとまず、やれやれ、と銃だけは下ろしていたのだった。
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