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追跡がないかを最大に注意し、育ての母と二人で住むアパートに戻った雷夢に、襲撃者の話を聞いた母が震え上がった。
「ええええ! 光の弾丸!? 何それ、どうしてそんなラスボスレベルをいきなり引き当てるの、雷夢ちゃんてば!」
そうなんだ……と溜め息をつく雷夢に、エプロンの好きな母が六畳一間に、家事後の姿のままでぺたんと座り込む。
「帰り道は、つけられてないよね!? 気配隠しは、お守りがしてくれてるはずだけど……」
「っても、アオイと知り合いみたいで、ここもいつ割れるかわからないよ」
一応雷夢は、華奈以外には自宅を教えていない。しかし華奈のあとをつけるなりすれば、アオイがここを知るのは簡単だろう。今まで、言葉が通じるほどではなくても、人外生物に出会えば雷夢達は引っ越しをしてきた。アオイの場合はあまりにただのチャラ男で、人間社会にも溶け込んでいるので、ついつい油断していたと言える。
暗い赤毛の、育ての母が残念そうに、両手を畳について嘆いた。
「そっかあ……せっかく、華奈ちゃんっていう素敵なお友達ができたのに、もうこの街も出ないといけない時が来たのね……」
「……」
雷夢もそれは、自覚があった。アオイという多少の不穏分子があっても、今回は見てみぬふりで留まりたかった。
そもそもこれまで、逃げることを繰り返す生活が不満で、不甲斐ない自身に胸がひっそり煮えたっている。
「……私、まだ、母さんの仇をとるには足りない? ……ユーファ」
先刻の軍服の女のような者が相手であれば、確かに勝てる自信は持ち切れない。それでもどうしても、尋ねたくなってしまった。
幼い雷夢を本当の母に託され、はるばる人間界に連れて来てくれたヒト。戦闘面での毅さはないが、異世界を隔てる闇を渡れる人魚に。
育ての母――長く生きて人化の力も持った人魚のユーファは、俯く雷夢に困ったように、あっさり爆弾発言を続けた。
「えええ? あのにっくき夢妖精くらい、いつでも星の彼方に送れちゃうと思うけど?」
「……え?」
「問題はお城と雷夢ちゃんのお父様でね、夢妖精にあることないこと吹き込まれちゃって、根が堅物だからクソ真面目に後妻を守ろうとしてるとこでね……あれ? 言ってなかったっけ?」
雷夢があまりに唖然としているので、やっと空気を読んだ育ての母だった。
聞いてない。雷夢は改めて、長生きのために少々記憶力の怪しいユーファに、声を抑えてしんみりと言った。
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