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PM 6:05
──カランカランと、ドアベルが本日最初の来店を報せる。
店の猫達は即座にニャーと反応し、それぞれの態度でお客様を出迎える…。
──匂いか音か、一見さんの気配を感じ取り警戒する猫。
──「もう開店時間か」と言うように、欠伸を1つして定位置へとのそのそ歩く猫。
…そんな猫達を微笑みながら見やり、“黒店長”ことワタシは不敵にお客様を出迎える。♪
「いらっしゃいませ、ようこそ猫バー“黒理”へ…♪」
「マロン~?マロンちゃ~ん?」
「…。」
初来店のお客様に名前を呼ばれても知らぬ顔で歩く金色毛のチンチラ猫。…因みに彼はオスだ。ボールなどを転がす1人遊びが好きで、猫じゃらしのように運動を必要とする遊びは嫌い。
…つまり、お客様とは趣味が合わなかったのだ。♪
「ふふ、猫とはそう言うものですよ♪」
「はぁ…?」
「…我々の祖先は今と同じように、家に住み、社会を構築して生きて来た訳ですが。」
あたし「…はぁ。」
…また始まった。黒店長の猫講座…。まぁ、あたしは好きなんだけどね?
「猫は違います♪人に飼われる猫もいたでしょうが、彼らは自然で暮らし、時には狩りもして生きて来ました。」
因みに店長はバーテンダーだ。…今言っても説得力無さそうだけど。
「故に、猫は自然でも生きて行けるように、生まれながらにそのような習性が備わっているのです。
安全な住処を探し、戦いに備えて爪を研ぎ、全てを注意深く観察し、何時でも機敏に行動出来るように姿勢から心掛けて…」
あたし「店長、ずれてる。」
「…申し訳ありません。では手短に♪
因みに、それが俗に言う『猫背』。つまりは危機的状況に対応する為の、猫達のファイティングポーズだと思って戴ければ♪」
「なるほど…?」
「…つまり何が言いたかったかと言うとですね。
…たとえ猫達が貴方に懐かなかったとしても、それは猫の本能のようなものであり、別に嫌っている訳では無いと言うことです。」
「つまりは人見知りのようなものです。きっとその内警戒を解いてくれるでしょう♪
猫も我々も、『安らぎ』を求めているのは同じ、と言うことですね♪」
あたし「ハイこれ。」
「は、箱…?」
「今のは。猫は安全で、リラックス出来る場所が好きって話よ。箱とか鍋とか。タコなんかもそうでしょ?」
「ぁ、ああ…」
「それを見えるところに置いときなさい。ねこねこホイホイよ。」
「…真理、そのネーミングは…。」
「…はぁ…。♪」
ただ待ってるだけかーみたいに、箱を抱えて溜め息を吐く男性客だ。
「…猫は、じっと見詰められると狙われているように感じて落ち着くことが出来ないそうです。
それは人間にも言えることだと思います♪」
「…。」
「当店には小説や漫画、TVなども御座います。…勿論、店長自慢の美味しいカクテルもね☆
のんびり、気長に猫との距離を縮めてみましょう♪」
「ワタシで良ければいくらでもアドバイスを…」
「猫の話がしたいだけでしょ。」
「…そうとも言います♪」
客「ぁ、あはは…♪」
…ぁあ…マロンを抱き締めて、すりすりしながらあの子の魅力を語り明かしたいなぁぁ…♪は~…♪
「ニャッ。」
「…ふふ♪」
壁に備えられた猫用の階段を下りてマロンが箱…ねこねこホイホイの置かれた場所へと近付いて来た。
…『呼ばれて来てやったぞ』と言うように鳴くものだから、笑って軽く頷いてみせる☆
マロン「…。」
客「ぁ…。」
前足で箱の向きを変え、お客様をチラと見て中へと入るマロン。顔ぐらい見せてあげれば良いのに…♪
「どうやら今日はあまり良い気分では無いようですね…♪
…真理。」
「はーい。」
店長の合図通り、棚から猫じゃらしを取り出して、お客様に差し出す。
「はい。猫が気になるように、ちらーっと見せるようにやるのがコツよ。」
席に座りながら遊べるように、ホイホイの位置と角度をずらして持ち場に戻る。
…この店はバーだけど、席はファミレスのそれに近い。お客様はソファーや椅子に座って、その前を猫が通るように道が用意されてる。
…そして、店の中で唯一店長だけは厨房に立って仕事をしている。つまり、客と猫のやり取りも全部見える特等席だ。…正に“黒店長”ね…。
「…、…。」
「…フフ☆」
恐る恐る猫じゃらしを揺らすお客様を見て静かに笑う店長。…店長としてどうなのよこいつ。(…まぁ、あたしも口が悪いとは思ってるんだけど。)
客「ぁ…!」
マロンが箱の中から前足だけ伸ばして、やる気無さそうに猫じゃらしをぺちぺちしてる…。
「フフ♪すみません、何時もなら寝ながら遊んでくれるところなんですけど、今日のところはこれで我慢してあげて下さい☆」
「はは…。♪」
「ミャ~…。」
「…こらこら、邪魔しちゃ駄目だよ?ミア♪」
ミア、メスの3歳。ラグドールにしては珍しく活発で、男の子勝りな元気系♪
ミア「フスフス…。」
「はいはい♪」
「ミャァアッ♪」
お客さんの邪魔をしないようにLEDポインターを使う。ミアは動くピンク色の点を夢中で追い掛けて奥の方へ…♪
「…。」
…いつの間にか姿が消えてると思ったら、厨房に隠れて読書をしてる都さん。…まぁ、いつものことだしね。
「フミャ~…♪」
都さんの足元にはロシアンブルーのルビーが寝てる。撫でられて気持ち良さそうに首を動かしてる…♪
男性客「…♪」
時々カクテルを飲み、落ち着いてはマロンの気を引こうとするお客さん♪…慣れてなさそうでちょっと可愛い。
「フフ…☆」
果汁入りの水を飲んで微笑む黒店長。
「ニャ~…♪」
店長の近くのキャットステップの上でアイリが鳴く。
「ふふ…♪」
これがあたしの職場。猫だらけのちょっと不思議なバー。“黒理”♪
…厨房の台にちょっともたれ掛かって、うとうとして来た目をぱちぱちして気を張る。
「あ、店員さーん。」
「…はいっ!♪」
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