アリス

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休日の遅い朝食の支度を、娘のアリスと共に整えて テーブルに向かい合わせに座ると、「いただきます!」と声を揃える。 娘は五歳。 妻を二年前に病で亡くした時は、妻と僕の両親が共に 孫娘を引き取ると言ってきかなかった。 妻の弟の大学生のカケル君まで、何なら僕が・・と言い出したが 妻亡き今、娘と離れて暮らすなどは考えられなかった。 結局皆、僕と娘の意志を尊重してくれた。 甘やかさないようにと気をつけているが、 大抵のことは何でもしてやりたい。 「お父さん、私、遊園地行きたい。」 食後の苺をつつきながら、アリスは唐突に言いだした。 僕は手に持っていたフォークを取り落とす。 アリスがあれれ?と落ちたフォークを追いかけて 僕の所にはい、と置く。 「な・なんだって・・?」 頬がぴくぴくと引きつった。 「私、お父さんと一緒に遊園地に行ってみたい。」 「ゆ、遊園地・・。」 アリスは走って幼稚園バッグを持ってくると、 ペタンと座って、中から小さな紙の包みを取り出した。 「これね?仲良しのユキ君が、遊園地のお土産にくれたの。」 アリスは小さな手に、鈴のついたウサギを乗せてみせた。 「可愛いでしょ?」 余計な事を・・。 僕は内心ユキ君に毒づいた。 アリスはウサギを僕の皿の横に こちらに向きに座らせると、自分の椅子に戻った。 「とっても楽しい所なんだって。」 僕は考えを巡らせる。 「とっても遠いし、人もいっぱいだよ? 沢山行列に並ぶし、アリスは退屈しないかなぁ・・。」
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