リュウジ

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俺は事務所の扉に突進する。 事務所のちゃちな針金のフック式の鍵は、 俺が体当たりすると、簡単にネジごと吹き飛んだ。 中では、社長が金庫の金を取り出している最中だった。 中腰のまま、驚愕(きょうがく)の顔で固まる。 この業突(ごうつ)く張りな社長は、誰も信じず、 いつもひとりでこの時間に回収作業をする。 リュウジはナイフを社長の首元に突きつけ、抑えた低い声で凄む。 「おい。その金を全部このカバンに入れろ。妙な真似するとぶっ殺す。」 血の気を喪った社長は、操り人形のように首を振った。。 「こ・・れは・・。社員みんなの・・。お願いだ・・。勘弁してくれ。」 嘘だ。 社員は信じられない安月給で、昼も夜も働かされているんだ。 この金は全部社長が私物に使う物だ。 「さっさとしろっ!ぶっ殺すぞっ!」 首筋をナイフの先で突かれて、社長はヒッと悲鳴を上げて 大慌てでリュウジのカバンに入れこんだ。 涙と鼻水がだらだらと(こぼ)れている。 ざっと二千万円くらいだろう。 カバンをひったくると、重く感じる。 「警察に知らせたら、どんなに逃げても殺すからな。覚えとけよ。」 その時、男が入 って来た。 リュウジの一年先輩だった山田だ。 社長が叫ぶ。 「おい!そいつを捕まえろ!泥棒だ!」 山田はナイフを持ったピエロから飛びのいて、 入り口に立てかけてあったモップを構えた。 彼はなにかれとリュウジを庇ってくれた人だった。 頼む・・やめてくれ・・。 リュウジは心の中で叫んだ。 振り下ろされたモップの柄をリュウジは必死にかいくぐった。 直撃はなんとか免れたが、僅かにずれた柄は 被っていたピエロのマスクを、顔からずり落とした。 「・・・リュウ・・ジ・・?」 山田の動きが驚きで止まった。 「なにぃ!」 後ろで社長の怒号が聞こえた。 リュウジはマスクを掴むと、階段を駆け下り ピルの前の路上駐車場に、好都合に停まっていた車に乗り込んだ。 後部座席で、運転手の首にナイフを突きつけ走るよう命じた。 車は社長たちが追いつく前に、滑るように走り去った。
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