第一章 もしかしたら

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「明日、急に大阪出張が入っちゃってさ」 「ふ~ん。なんか最近大阪出張多くない?」 「ああ、それはこの間も話したと思うけど、今うちの部署が進めているプロジェクトが関西の顧客を想定しているからだよ」 「それにしても多くない?」 「何だよ、それ。疑ってるわけ?」  急に声を荒らげたこと自体怪しいと、綾香は思う。 「誰もそんなこと言ってないじゃん。ただ、感想を言っただけだよ。もういいよ」  晴久も自分がきつい言い方になってしまったことを反省したようだ。 「ごめん。俺が悪かったよ。このところ仕事が忙しくて精神的ゆとりがなくなっていたんだ」  そういうこともあるとは思うけど、なんか納得できなかったので返事しない。夫が浮気しているかもしれないと思うと綾香の気持ちは塞ぐ。かといって、証拠をつかむために何か行動を起こす気にもなれない。  そうこうしているうちに、綾香は新たな命を身ごもったことを知る。病院でそのことを知った時、もう夫のことを疑うのは止めようと思った。綾香は新しい命のために精一杯頑張ることにした。そうして産まれたのが次女の紗英だった。
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