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邂逅
「はあっ、はあっ」
気付いたら全身で息をしていた。
毛穴の一つ一つがまるで呼吸困難になったかのように息苦しい。吸っても吐いても、全く楽にならない。
いや。楽になんて、なった方がおかしいのかもしれない。この場合。
僕の目は、少し離れた所で仰向けになって倒れている男を捉えて離さなかった。そして僕の指は、トリガーを引いた形のまま固まっている。硝煙の臭いが、鼻にまとわりついて煩わしい。
ほんの数刻前まで善良な一般市民だった人間が、犯罪者となるのは何と容易い事か。
僕は、たった今、拳銃で人を撃った。
藤堂グループ。
比較的新しいものの、時節を巧みに読み急成長を遂げた大企業だ。
僕の父親は、そこの経理を任されていた。
実直。真面目。家族の僕にさえそう形容される父親は、責任感も非常に強かった。
だから横領で逮捕された時は、すぐに冤罪だと分かった。酷く窶れてしまった顔をして、本人も否定した。
父は身に覚えのない悪事を全て被せられた。
生贄にされたのだ。藤堂グループに。
父はーーー自殺した。
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