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僕は自分なりに徹底的に調べあげて、元凶の仇を確実に突き止めた。
やはりというか、藤堂グループの代表取締役社長・藤堂隆司ーー僕が撃った、今倒れている男だった。
『復讐をしても亡くなった人は帰ってこない』『そんな事をして故人が喜ぶと思っているのか』などと、ありきたりな言葉をしたり顔で人は言うだろう。
ならば、遺族のこの悲しみと怒りはどこへぶつければいいと言うのか。僕の怒りは僕だけのものだ。例え自己満足でも構わない。僕が、晴らす。
カタリ。
物音がしてハッとした。一気に金縛りが解ける。侵入した藤堂家の豪奢な洋室を慌てて見回した。
誰かいるのだろうか。そういえば隆司に集中し過ぎて他は注意散漫だったかもしれない。見回した勢いで振り返る。
すると、そこに立っていたのは。
後方のドア。キイと開いたその隙間から姿を現したのは、年端も行かぬ少女だった。
しまった、と僕は青ざめる。
今は真夜中だ。偶然起きてきてしまったのか。彼女にだけは見つかる訳にはいかなかったのに。
少女は、藤堂翠子。年齢は確か11歳。藤堂隆司の一人娘だ。
僕は怯えて後ずさる。覆面をしていないので顔がバレてしまうとか、そんな些末な事を危惧したからじゃない。翠子の目が、僕から事切れている隆司に向く。
ーー駄目だ……見るな!
父の遺体の第一発見者は僕だった。
子供に罪はない。自分の父親が殺された現場を目の当たりにして、彼女がどれだけ傷付きトラウマを負うか。それは本意ではなかった。僕は蚊の鳴くような声で「すまない……」と情けなく詫びる。
しかし。
翠子は笑った。見間違いではなかった。ふふふっと、実に愉快そうに笑う。
そしてぽかんとする僕を真っ直ぐに見て、その桜色の小さな唇を開いて、こう言い放った。
「なぁに? 貴方、その男に何の恨みがあったの?」
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