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ピンポーン、ピンポーン♪
あ、お客様だ!
「「いらっしゃいませ~!」」
私と店長は完璧な営業スマイルを入ってきたお客様に向けた。
……のだが。
「…店長…」
「うん、あれは明らかにおかしいな」
入ってきたのは60過ぎくらいのおじいちゃん。
何だ、けど……。
なんかフラフラしていて、目も虚ろで、全体的にプルプルしている。
──だ、大丈夫なのかな?あの人……。
今にも倒れそうで心配になる。
「…あの人、酔ってんのか…?」
隣に立つ店長がボソリと呟いた。
「大丈夫何ですかね、あの人……」
何かヤバそうなんだけど……。
……って、思ってるそばから。
「何か、入ってすぐ止まっちゃいましたね」
「あんなとこで立ち止まるなよ……」
何故か入口に入ってすぐの所で止まってしまった。
チャイムがめっちゃピンポンピンポン鳴ってる……。
マジうるさいからやめてほしいんだけど、今の問題はそこじゃないか。
「声、掛けますか?」
私が念のため店長に確認すると、
「おぅ。ちょっと話しかけてみるか」
と言いながら腕を組んでうんうんと頷く店長。
どう見たって完全に私にやらせる気満々だ。
別に嫌じゃないけど何か腹立つので、
「じゃ、宜しくお願いします!」
店長に押し付けることにした。
「俺かよ?!」
慌てよう……やっぱり押し付ける気満々だったのか。
「こういうのは男の仕事でしょうが!!」
私が背中を押すと、店長は不満そうな顔をしながらしぶしぶおじちゃんに声を掛けに行った。
よしよし。
「あの~、どうかなさいましたか?」
店長が声を掛けると、
「えぇ?」
おじいちゃんは気の抜けた返事をしながら店長の方を見た。
「あの~、どうかなさいましたか?大丈夫ですか?」
「えぇぇ?」
また気の抜けた返事をしながら店長に顔を近付けるおじいちゃん。
酒臭いのか、店長は一瞬たじろいだ。
が、それでも諦めずに今度は
「あの!どうかなさいましたか?大丈夫ですか?!」
耳元で声を張っていた。
いつもやる気ない店長が頑張ってる!
頑張れ!頑張れ!!
しかし、店長の頑張りもそんな私の心のエールもおじいちゃんには届かなかった。
「何だって?」
「……」
──あ、ダメだ。話通じないやーつだ。
スタスタとこっちに戻ってくる店長。
そしてなぜか手を差し出された。
「はい、選手交代」
「いや、私でもアレは多分ダメですよ!?」
話通じねぇのは私も無理だ!
「諦めるのはまだ早ぇ!はい行った行った!!」
「えぇー!無理ですってー!」
店長に背中を押され、仕方ないのでズルズルと話しかけに行くことにした。
「あの~」
私が声を掛けると、おじいちゃんはこちらを見た。
「んん?」
「大丈夫ですか?」
おじいちゃんは少しの間を空けたあと、
「ん…あぁ。おーけーおーけー」
と言いながら手でOKサインを作った。
えぇー…話通じちゃったよー!
おーけーおーけーって言ってるけど、本当に大丈夫なのか?!
店長をちらっと見たら手招きしてたので、カウンターに戻った。
「…何ですか?」
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