タイピスト

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タイピスト

 ある日A氏が寝ていると、しきりにどこかからカタカタと音がする。耳を澄ましている内に目が覚めてしまい、寝返りをうって時計を見た。  午前2時だ。  まるで耳元で誰かがタイピングしているようだ。そして時々、正にタイプライターの行を変えるが如く、ガタッと大きな音がする。  そうだ、これはタイプライターの音だと、A氏は思った。  しかしA氏は1980年生まれであるから、タイプライターの音など実際は聞いたことがないのだから、本当にタイプライターの音かA氏に分かるはずもない。そもそも、ここはA氏の寝室で、タイプライターなど無いのだ。家族はみんな寝ている。  さて、これは何だろう。  音は確かにタイピングの音のようであるが、実際のタイピングの音程大きくはない。  音を説明しようとすれば、小人が耳元でタイピングしている、というところだろうか。  そんなことが幾晩かあった。  A氏は念のため耳鼻科に行ったが、A氏の耳は至って正常であった。  しかもこの音は昼間には聞こえない。    注意していると、夜寝ている時、ベッドに横になると聞こえ出すのである。ベッドから聞こえているのかと思い、ベッドに這いつくばって耳を寄せてみたが、どうもベッドからではないようであった。
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