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無法者
腑に落ちない気持ちが消えることはなかったが、当然として方法を選び、己の存在を確かめていた。
それは、長い冬の憂鬱が続くような時代。ある都市でのこと。
時折、強く吹き抜ける風で夜の都市は泣いていた。袋小路。狭い路地裏で家屋の切れ間から矩形の空を見上げていた。月の方も此方を覗いていて、立ち呆けている無骨な、この肉体を模る亡霊が壁に張り付き、夜陰を拡大させている。また、都市が泣いた。雲が流れてくる。暗黒。
月は西へ。生あるものは全て、眠りにつくべき時。未だに聞こえているものは死者の嘆きの風。宿屋と酒場が並ぶ通りから男が独り、脱け出してきた。夜警の気配がしている。男は目立つことを恐れて、灯りを外套に隠して走った。頻りに辺りを見上げている。空を流れる影が男の足を急かしているようだ。裏道を進み、民家を離れ、廃材が置かれる空き地へと潜り込む。
風が吹く。男は頭上を仰いだ。影が月光を遮るから、男は闇の中にいる。男は灯りを表に放った。足取りを緩慢にさせ、呼吸を整えている。灯りが行き先を照らし出す。男の目前を塞いだ身体。纏った革の外衣のひだの陰影がはためく。灯火はこの瞳にも映り込んだ。
男は背を向けて走り出した。灯りを投げ捨て、転びながら逃げてゆく。風が鳴ろうと闇に包まれようと今は構わないらしい。男は手探りで夜に掴みかかり、飛びついた矢先に末路を見上げた。男の首を掴んだ。締め上げて、地上から体を離してゆく。互いの顔が近づき、よく、目と目に映し合う。男は言葉もなく崩れ落ちた。
息絶えた男の懐を探った。掌に重い袋を抜き取り、己の懐へ収めた。
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