罪食らう罪

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歩が鈍い。腕は垂れ下がり、頭の重みで前のめりになる。身体の芯が砕けて、動くほどに亀裂が拡がってゆく。天が慟哭を上げていた。都市から聞こえている。朝の訪れを知らせる鐘。 視界が眩い。両目を無用にする空虚な平野を行く心地がしていた。属されるところなどない。己は唯一人。ここまで辿ってきた道程すら識別できない。光明を目指せぬ者に、到る場所を選ぶことなど許されない。闇を落ち続けて、無限に醜悪な情景を見届けてゆくだけだ。地を擦る不利な殻を棄てられたら、彷徨うこともなかったのだろう。随分と草臥れてしまった。不利な。 天上から注ぐ音に近づいている。 大聖堂の扉に両手をついた。指が震えて捲れ上がり、肘を打つ。額を支えに立て直し、息を吐いた。もたれ掛かって体を押し当てる。ぶつかり続けても扉は隙を与えない。拳で叩いた。忌々しい扉。退かない。腕が疲弊してくる。 扉が軋み、ずれた。拳を振り下ろした勢いのままに平手で突く。戸が下がるのに合わせて前に倒れ込む。淡黄に輝く、柔な羽が顎に触れた。胸元に抱き込んだものによって、その場に止められた。リュシアンか。重い瞼が煩わしい。開けば、まだ、瞳に射し込んでくる。二筋の青いサフィールが己の顔面で右往左往と交わされた。この表情は狼狽え、肌は苦痛で黒ずみ、唇は締まりなく戦慄き、抜け落ちた温もりは憂愁の底に沈む。己の様を照らすばかりで通そうとしない彼を放って、先を急いだ。ひたすらに前へ。ふらつき、もつれる足。柱にすがり、進んでいった。 頭上に佇んでいた。仰いだ刹那、閉じてゆく視界に姿を認めた気がした。 父よ。これが必要なことなのですか。飽き足りるときは訪れないのでしょうか。 image=502148808.jpg
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