疑問と当てつけ

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教会堂の長椅子に腰掛けて、天井を見上げていた。昼過ぎまでは強く射し込んでいた外光が、気に留めない間に消えていた。屋舎にぶつかっていた風が雲を寄越したのだろう。ここには天空の世界が成される。父の御許に灰色の帳が被されば、倣った領域は色彩を失うはずだ。教会堂内は光も影も褪せていた。 リュシアンが己のローブに開いた穴を繕い、染みを洗い落とすという。彼が用意した服は、少々、窮屈だった。 胸に乗っている十字架がにわかに重い。 地獄で焼かれる者は、決して業火から逃れることができない。魂は苦しみから激昂し、思慮は燃え尽きてしまう。炭と化してしまえば、盛っていた意識も感情も忘却に付される。 今、濁水は流れ切って、大地は乾燥していく。何が残っているのだろうか。事のあらましすら失われてしまった。この時に於いては、雨音が耳の奥で轟いているだけだ。 長椅子の肘掛けに頭を乗せて、仰向けに寝そべった。目線はカテドラルの支柱に沿って上る。 天井で組まれて重なり合うアルクの骨の綾が瞳に溢れた。不意に陽が射して、堂内の空気が一変した。御心に歓喜が舞い戻ってきた。後背のヴィトロの光華が宛がわれ、荘厳が極められる祭壇へ、自然と視線は束ねられる。 それでも、何かが得られることはないのだろう。 己の精神は幼く、永遠に待ち呆けているだけ。できることがあるとすれば、両手を突き出して乞うことくらい。同じところに留まり続けて、次へ踏み出すことができない。溜まっていく問題を、この身が滅ぶときまで持て余している。 疑問は消えない。跪いて、問うこともした。答えは出た。それは、返されてきたものではなかった。瞳を閉じる。少し、休もう。
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